平成3年度の研究目標は小児用多目的血液ポンプとその駆動装置の信頼性、有用性、耐久性などを動物実験その他で検討すること、及びこれらの装置を利用した新しい体外循環治療法を開発することとした。 1.血液ポンプの開発:泉工医科社開発部に依頼製作した血液ポンプは血液に接する部分は医用シリコン・ゴムで、ハウジングはエポキシ樹脂で製作され、ダイアフラグマを介して、滅菌生理食塩水室が圧迫され、間接的に血液室を圧迫する構造で空気塞栓などの危険を回避できる。機能及び耐久性に関しては信頼できるポンプであることを確認した。血液室と弁との接合部の段差があるため無ヘパリン下の駆動では血栓を生ずる可能性が推測されるが、ヘパリン使用下では問題はないと思われる。 2.呼吸不全に対する膜型肺体外循環治療への応用:平成3年12月21日先天性横隔膜ヘルニアで緊急手術を受けた生後2日の新生児患者に膜型肺体外循環治療(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)が施行された。本装置を用いたECMO治療により呼吸循環不全を脱したが、施行開始後60時間頃に頭蓋内出血の疑いが持たれたためECMO治療を中止し、人工換気に移行する方針とした。ECMO治療時間は67時間36分であり、この間膜型肺及び血液ポンプは期待通りの機能を発揮し、ECMO治療は成功した。 3.肝臓部分灌流法の開発実験:雑種犬を用い、肝臓のみを分離して灌流する実験を本血液ポンプを使用して行った。下大静脈から肝静脈血を回収し、酸素化した後、門脈及び肝動脈から送血する肝臓分離灌流法の手技を確立できた。研究成果は第89回日本外科学会総会、第29回日本小児外科学会総会に報告される。
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