研究概要 |
本年度は、ラット脳虚血モデルを用い、レ-ザ-励起法と微小径内視鏡集光による脳組織自家蛍光スペクトル測定を行い、その虚血に伴う変化を観察した。ウィスタ-系ラット(300g前後)を用い、ペントバルビタ-ル麻酔下に大腿動静脈にカテ-テルを留置して動脈圧モニタ-を行うとともに、脱血操作に備えた。ラット頭頂部頭骨を直径約3mm除去し,硬膜上より紫外レ-ザ-光(363nm)をパルス照射した。脳表面部位からの蛍光は外径1.4mmまたは1.8mmの内視鏡で集光し,高感度フォトダイオ-ドアレイ分光システムにより、1000パルスについて積算し蛍光スペクトルを得た。一回の測定には約1分を要した。脳虚血負荷は脱血にりり平均動脈圧を40mmHg程度として両側総頚動脈結紮により施行した。紫外光(363nm)の照射により400〜500nmにわたる幅の広い蛍光スペクトルが観察された。集光部(内視鏡尖端)と脳表面の相対位置が動くと蛍光強度が変化することから、NADHが蛍光極大を示す470nmとNADH成分の殆どない400nmの2つの波長を選択し、蛍光スペクトルにおける強度比(F_<470/400>)の変動を解析した。虚血前、平均動脈圧111±6mmHg(mean±SE,n=6)においてF_<470/400>は1.3±0.3(mean±SE,n=6)であったが、虚血中(脳波平坦化後3〜5分、平均動脈圧35±4mmHg)ではF_<470/400>=1.8±0.5(n=6)と有意に(p<0.05,paired t-test)増加し、虚血解除10〜20分後、脳波の出現した5例(平均動脈圧94±4mmHg,n=5)ではF_<470/400>=1.5±0.4(n=5)と有意ではないが虚血中よりも低下した。この虚血時の蛍光強度増大は組織低酸素によるNADHの増加に起因すると考えられ、微小径内視鏡を用いる蛍光測定は組織虚血の経時的モニタ-に応用できることが示唆された。問題点として、1回の測定に要する時間の短縮、定量性の向上が必要と思われた。以上、ラット脳表面組織の自家蛍光スペクトル測定から虚血時にNADHに帰属される蛍光強度の増大が観察され、微小径内視鏡による蛍光スペクトル測定は脳、脊髄組織虚血モニタ-として応用できることが示唆された。
|