金属エノラ-トは、有機化学反応において最も重要な反応活性種の一つである。その反応性や立体選択性を制御して効率よく炭素骨格を構築する手法の開発は、創薬を目指す者にとっての急務であろう。一方、クラウンエ-テルなどのヘテロ大環状化合物は、種々の陽イオンを内孔に捕捉することが既に知られており、金属カチオンおよびエノラ-トアニオンと非共有結合による三者錯体を形成すると考えられる。従って適当な不斉修飾を施されたクラウンエ-テルは、アキラルな金属エノラ-トの反応性とエナンチオ面選択性に多大な影響を及ぼし、しかも触媒的機能をもつことが期待できる。本研究は、不斉クラウンエ-テルの形成する不斉な錯体の構造と反応の立体制御との関係を明らかにし、一般的な触媒的不斉合成を開発することを目的としている。 我々は、触媒量のt-BuOKと不斉クラウンエ-テル1の錯体を用いてチオフェニル酢酸エステル2から2-シクロペンテノン3へのマイケル付加反応を行い、続いて付加体4を脱硫して得られるδ-ケトエステル体5に71%e.e.(S体)の光学純度が与えられていることを見出した。クラウン1とエステル2のカリウムエノラ-トの錯体が、マイケルアクセプタ-である3のエナンチオ面を選択したのは興味深い事実であり、今後本反応系のメカニズムについて検討する予定である。
|