1.フラッシュフォトリシスによる酸素化ヘモグロビン、酸素化ミオグロビンの光解離、再結合の動的過程の解析から、組織の限定された部位における酸素濃度を実時間で数十マイクロ秒から数ミリ秒で測定する方法を確立するために、基礎データの収集に必要な装置をまず製作した。 即ち、高速ラピッドスキャン装置、ダブルフラッシュ分光装置、時間分解吸収分光装置の製作は、初期の予定を上回る成果を得て、基本データの収集のみならず、関連領域で未開拓な研究分野を開くことに成功した。その代表例は、酵母に存在するフラボヘモグロビンの、酸素センサースイッチ機能の発見である。しかし、組織内酸素濃度の高速測定に関して、筋肉ミオグロビンの酸素化過程におけるスペクトル変化を記録することに初めて成功したものの、酸素化ヘモグロビンの光解離、再結合過程の解析については、多くの問題点のあることが判明した。 2.牛筋肉に含まれるミオグロビン酸素化過程の測定を高速ラピッドスキャン装置に光ファイバープローブを組み合わせて行った。肉塊を切断直後は、切断面に分布するミオグロビンは脱酸素化されているが、酸素化の進行につれて、591nmに等吸収点をもち、582、540nmの山、600、563の谷を示す良好な反射スペクトルが対数時間軸に対し、512本記録され、また吸光度変化に2相性のあることが確認された。 3.時間分解吸収分光装置による酸素化ヘモグロビンの光解離・再結合過程の測定。酸素化ヘモグロビンの光解離は、サブナノ秒の時間領域で起こり、再結合はマイクロ秒の時間領域でほぼ終了する。従って、酸素化ヘモグロビンの再結合過程の速度解析に基づき、ヘモグロビンの存在する環境における酸素濃度を評価するために、酸素濃度と再結合の動力学的パラメーターとの関係を求めた。この解析結果に基づき、組織内酸素濃度の測定のための、解決すべき種々の問題点を明らかにした。
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