わが国における結核は、栄養状態の改善や抗生剤の開発により激減したが、近年、有病率の減少が鈍化する傾向がみられる。結核菌は成長が遅いことから、培養法で細菌学的診断を行うのに4-8週間の長期を要する。そこで本研究では、PCR法によるDNA診断を開発し、迅速かつ特異的な結核菌検出法の確立をめざしている。 本年度は、新たに18種類の結核菌と非定型抗酸菌を共通に認識するPCR用プロ-ブをdnaJ遺伝子より開発し、さらに増幅部分の塩基配列を決定した。その結果、各菌種に特異的な制限酵素の切断部位を同定することができ、PCRとRFLPを組み合わせることによって抗酸菌種を簡便に同定することが可能となった。同時に、各菌種のPCR産物に特異的にハイブリダイズするオリゴプロ-ブの開発も進行中で、PCR-RFLPの結果をオリゴプロ-ブで確認する方法もほぼ確立された。 実際の臨床検体では、約100例の痰、気管支洗浄液、胃液、脳脊髄液から、結核菌と非定型抗酸菌が検出されている。塗沫染料や培養法と比較すると、塗沫陽性例は全例でPCR陽性であり、培養陽性例では、その98%がPCR陽性であった。逆にPCR陰性例では、塗沫および培養陽性例は1例も認められなかった。このことからPCRによる結核菌と非定型抗酸菌の検出は、充分に臨床応用が可能であると結論された。今後は感度と特異性の向上を図るため、Nested PCRの開発を行う予定である。
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