研究概要 |
遺伝子治療の基礎研究として,造血幹細胞へ効率よく遺伝子導入を行う方法の開発を目的として研究を行った.具体的には,(1)レトロウイルスベクタ-を高率に産生する方法と,(2)そのウイルスベクタ-をマウスの骨髄幹細胞へ高率に感染させる方法を開発することである.(1)に関しては,まずベクタ-の改良を行った.多くのレトロウイルスベクタ-ではプロモ-タ-としてモロニ-白血病ウイルスのLTRが用いられているために幹細胞での発現能がほとんどない.本研究ではこのエンハンサ-部分をミュ-タントポリオ-マウイルスのエンハンサ-と交換することにより,幹細胞で発現するベクタ-の作成に成功した.次に,高率にウイルス産生を行うパッケ-ジング細胞を選択した.第1年度まではPA317細胞を用いていたが,この細胞では5x10^6CFU/mlが限度であった.GPE86細胞では3X10^6CFU/mlであったので,この細胞からサブクロ-ン選択し,3x10^7CFU/mlのウイルス産生を行うM3細胞を得た.骨髄細胞ヘレトロウイルスベクタ-を高率に感染させる方法として,トランスウエル法を用いた.骨髄細胞の培養はストロ-マ細胞株へneo遺伝子を導入したPA6-neoとの共培養,さらにこの系へ種々のサイトカインを加える方法を用いた.最良の方法はPA6-neoとIL-1,3,6またはIL-1,3,6とSCFの組合せであった.これらの培養ヘトランスウエル法でウイルス感染を行ったものを放射線照射を行ったマウスへ静注し,8日目または12日目の脾臓細胞ではIL-1,3,6とSCFを加えた群でneo遺伝子の存在が証明された.また,骨髄培養法としてDexter法を用いた場合も,同様に脾臓中にneo遺伝子の存在が証明された.すなわち,本研究の目的である造血幹細胞へ高率に遺伝子を導入する方法は,満足できるところまで確立された.本研究の成果はヒト骨髄幹細胞へ高率に遺伝子導入を行うための基礎となるものである.
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