藁谷は「レシニェフスキ-存在論とラッセルの記述理論」において、述語「x is a particular example of y」を内部で表現可能にするような論理言語の構築を示した。その際、ラッセルの記述理論が、通常の一階述語論理の体系において名辞範疇を拡張することで、その能力を具備すること、またそれがレシニェフスキ-存在論として知られる体系を含むことを示した。この拡張が論理的に重要なのは、出来事の論理的分析に当たり、「x is an individual (eventー)example of y」という表現を可能にするという点であり、上記の論文はその基礎をなす。さらにこの点は、昨年度までに主たる関心を示して研究を進めていた「部分と全体に関する一般理論」に、出来事の論理分析上、先行する部分である。 桑子は、前年度に引き続き行為の理解を目標にして、アリストテレスの理論を研究した。アリストテレスの行為の説明は、かれがつくりあげた三段論法の延長線上にある。つまり、いわゆる推論を構成する三つの項のうち小項が感覚的個別者であるような推論にもとづいて行為が説明されるのである。アリストテレスがこのような発想に至った経緯を、三段論法とプラトンのアカデメイアで用いられていた分割の方法との関連を探ることによって明らかにし、行為の説明を構成する諸項の関係が個と普遍との関係に関わることの意味を明らかにする手掛かりをうることができた。平成4年度は、この点に関する研究をさらに押し進めて、アリストテレスの理論を踏まえ、行為の説明における個と普遍の関わりについて明らかにする予定である。 奥田は、科学的説明の立場から、出来事の記述に関する研究を引き続き継続している。
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