1)パルメニデスの「存在」概念を明かにする為、パルメニデス以前のイオニア派のアルケー、ピコタゴラス派のプシューケーの概念を明かにすることに努めた。その結果更に時代を溯って、哲学以前のギリシア人の心情、宗教的感情の中でその核となる。生き生きと同一性を保ち働きつづける何かへの信仰の要素が根抵にあるとの見通しを得た。具体的には人間が生存する為に犠牲となり葬られ、しかも復活再生してくるディオニュソス神に象徴される力への信仰、及びホメーロスの『イーリアス』の中のアキレウスの怒りに見られる、他とは置き換えられぬ自己という考え方である。 2)上述の探求と同時に、パルメニデスに尊敬を抱きつつ対決したプラトンに於ける「存在」概念理解を明かにすることに努めた。ここでは、生命を賭して自己の人格の同一性と倫理的主体性を守ったソクラテスが媒介となること、特にソクラテスはパルメニデスの「存在」概念に生命を吹き込み、身をもって生きたことを裏付けた。 3)以上の成果をふまえてパルメニデスの残存断片の整理、編集、翻訳、註釈の作業を試みた。特にパルメニデスは、「真理の道」で思性によって捉えられるとした「存在」が「ドクサの道」で感覚世界に如実に働きかけている その働きかけの様相を明かにすべく努めていること、「序歌」はその「存在」のもつ生き生きとした同一性を保ち働きつづける力を詩を通じて感得させると共に、「存在」理解の連続性と段階性を示すものであり、二つの道をつなぐ要となっていることを示すことに努めた。
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