研究概要 |
平成4年度は本研究の最終年度に相当するため,以下のような課題について考究した。第一は法然浄土教と中古天台本覚思想文献とのかかわりの問題である。本覚思想文献の成立年代は学者間に異説が多く,困難な課題であるが、法然以前に成立した本覚思想文献として、具体的に『妙行心要集』・『安養集』・『観心略要集』・『安養抄』・『浄土厳飾抄』・『諸仏菩薩本誓願要文集』・『決定往生縁起』・『観心往生論』・『自行念仏問答』・『菩提要集』・『真如観』・『菩提集』・『勧心往生論』等の成立年代をまず検討した。その上で,主として『本理大綱集』・『円多羅義集』・『牛頭法門要纂』・『五部血脈』・『註本覚讃』・『本覚讃釈』・『三十四箇事書』等,一つ一つの文献の法然浄土教への影響について考察した。第二は本覚思想排判の立場にたつ証真と法然門下聖光・良忠両浄土教(鎮西義)との思想的かかわりについて、証真の『観経琉私記』を中心として考察した。第三は法然門下隆寛の浄土教(長楽寺義)と東陽流・椙生流の本覚思想とのかかわりについて,とくに忠尋・皇覚・範源の撰述書の思想的影響について考察した。また『修禅寺決』・『漢光類聚』は一応法然以後の成立と推定し,両書と隆寛・證空との思想的かかわりについても考察した。第四は法然門下證空の浄土教(西山義)と大原流の本覚思想とのかかわりについて,とくに良忍・願蓮・政春の撰述書の思想的影響について考察した。以上、鎌倉浄土教の研究は単に法然門下諸流の表面的な教学の比較研究だけでは不十分であって、そのような各派浄土教学の相違点が生じ来った根源的な原因を解明する必要がある。このように法然およびその門下研究に中古天台本覚思想という視点を導入することの意義はきわめて大きい。
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