われわれが仏教を学ぶ時、阿含や大乗の経典であっても、或は阿毘達磨や中観学派の論書であっても、その著作の背後に「瑜伽行の実践者」としての著者の姿を想わないわけにはいかない。学ぶ対象が瑜伽行という語をその学派名の一部とする唯識学派の論書である場合、その想いは更に強くなる。にもかかわらず、その行法の実際を明確に把握することはなかなか容易なことではない。ツォンカパの『菩提道次第論』(ラムリムチェンモ)を研究、和訳しようと思うに至ったのも、この書が実に多くの聖教と論書から夥しい引用がなされているが、正鵠を射た引用のおかげで、繁雑な記述に対してもその要点を的確に把握する方途が与えられるからである。 本書は、衆生が悟りに至るための仏道の実践階程を詳しく解説した書である。最初に三種類の有情の道が規定され、次に菩提心の実習次第が説かれ、次に大乗の根本が悲であることが述べられ、以下、悲を実践する順序、悲ということが成立する基準、菩提心の功徳、止、智慧を本質とする観、プラ-サンギカの特徴、瞑想に際して全ての思考作用を否定してしまうことが正しくないこと、観察の修習と安住の修習の両方が必要であること、及び密教のことが説かれる。 『ラムリムチェンモ』の骨格は、インド典籍としては、アティ-シャの『菩提道灯論』に基づき、チベット典籍としては、ロ-ツァ-ワチェンポの弟子であるトルンパ・ロテジュンネの『テンリムチェンモ』に基づいて構築されている。 本書の全体の主題である「ラムリム」(修習次第)という思想そのものが我が国では余り知られていない。その思想の概略をまとめ、紹介できるようにも努めた。
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