『菩提道次第論』(ラムリムチェンモ)は、ツォンカパが45歳の時(1402年)に、中央チベットにあるカ-ダム派の本山ラデン寺で造られた。それは、釈迦の経典、及びその意図を解説した論書の全体の内容を、優れた上品の有情と、それより劣った中品の有情と、更に劣った下品の有情という三種類の有情のための仏道に振り分けて述べたものである。このような分類の仕方で『菩提道次第論』は、全ての衆生のための仏道の実践法を、具体的にしかもよくまとめて解説している。 『菩提道次第等論』のあらましを紹介しておく。前述した三種類の有情の道が規定され、次に菩提心の実習次第が説かれ、次に大乗の根本が悲であることが述べられ、以下、悲を実践する順序、悲ということが成立する基準、菩提心の功徳、止、智慧を本質とする観、プラ-サンギカの特徴、瞑想に際して全ての思考作用を否定してしまうことが正しくないこと、観察の修習と安住の修習の両方が必要であることと、及び密教のことなどが説かれる。 本書が、典拠としているテクストは、コロホンの記述からするとインド典籍としては、アティ-シャの『菩提道灯論』であり、チベット典籍としては、ロ-ツァ-ワチェンポの弟子であるトルンパ・ロテジュンネの『テンリムチェンモ』である。しかし、本書を読んでいて気づくことは、一般にはあまり取り上げられないことではあるが、最も大きな影響を与えた重要なテクストは、『菩提道灯論』と言うよりはむしろカマラシ-ラの三つの『修習次第』であるということである。 後世に多大な影響を与えたツォンカパの著作を和訳紹介することによって、チベット仏教思想体系の一端が理解できるように努めた。
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