幼児が日常生活経験を通じて獲得する生物に関する知識の特徴を明らかにすることを中心に、この知識が学校で学ぶ生物学とどの様に関わるのかを、小学校教師や幼稚園教師が飼育栽培などの場面で行う説明やフィードバックの特徴を調べ、それらの説明が幼児にどう理解されるかの観点から検討した。その結果、生物に関する日常生活経験の主要なソースとしての動物飼育経験(具体的には金魚の飼育をとりあげた)を通じて、幼児は、人間を中心とした狭い動物概念から、より広い動物概念をもつようになる(人間との類似性が低い動物へも動物が共通に持つ属性を付与できる)ことが明らかにされた。また人間の体内の器官の働きが本人の意志では制御できないことに幼児が気づいており(一般的には4歳台だが、項目によっては3歳台から)、心と体の働きが異なることを理解していることも明らかにされ、幼児が「日常的生物学」ともいうべきものを小学校入学前に持っていることが示唆された。学校という機関で学ぶ知識を伝達する役目を担っている者としての小学校教師や幼稚園教師の飼育栽培場面での指導に際しての説明やフィードバックの検討から、幼稚園教師だけでなく、小学校教師も低学年の子どもに対しては、かなり擬人的な説明やフィードバックをすることが多く、生物が本来持っていない特性にまで人間の持つ属性を付与するような擬人化しすぎの傾向も見られた。これは子どもを本来よりも幼いものとみる傾向からくるらしい。こうした大人の与える擬人的説明のなかには、子どもの生物学的理解を抑制することもあること、動物飼育の手続きの理解を促すにはむしろ、子どもの持つ人間についての知識を使いやすいようなヒントを与えることが重要であることが示唆された。子どもの日常的生物学を生かしながらそれをさらに精緻化していくさらなる教育的働きかけの具体化は今後の問題として残されている。
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