研究概要 |
新生児の音声知覚,その中でも母国語,非母国語の弁別について実験を行なった。母国語として日本語,非母国語として英語を同一話者によって発声(物語)し,生後11日目から60日目までの新生児に聴覚刺激として与えた。日本語から英語,英語から日本語へと刺激音を変化させることで,吸啜数の変化が生じるか否かを弁別の指標とした。その結果,言語を変化した時点で,吸啜数に変化が生じ,しかもその変化は,英語から日本語へ刺激が変化した時の方が明らかにみられた。従って,既にこの月齢の新生児で,母国語に対する「親密性」が備わっているものと推測された。 さらに,母音知覚においてみられる正規化能力について,生後6〜7ケ月児について実験的に調べた。反応はヘッドタ-ン法を用いた。その結果,男声,女声の母音(合成音声)に対し,母音の判断境界を基本周波数に応じてズラしており,ほぼ正規化能力は完成していることがわかった。さらに,成人,幼児と比較すると,判断境界の移行は年齢が低くなるにつれて広がり、低年齢ほど基本周波数の影響を受け易いことがわかった。 以上のことから推測すると,既にヒトは胎内で母国語の韻律的情報の特徴を把握しており、非母国語との違いに気付くことができると思われる。さらに、前言語期の乳児でも、聴覚的に母音の正規化の能力を有しており、成人とほぼ等しい能力であると言える。これらは従来の研究では報告されておらず、さらに細かい検討を行なうことで,ヒトの生来的に有している言語能力が明らかにすることができるだろう。
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