多次元知覚空間を生成する階層的な視覚情報処理に関し、明るさ属性と色相・彩度属性について検討した。 視覚系において最も基本的な機構は、網膜における感度調整である。Weber法則に代表される明るさ感度調整は、感覚受容器に普遍的にみられるミカエリス-メンテン反応曲線と深く関係していることが、従来の研究により明かとなっている。本研究では、最近の生理学的研究で最も重要な事実である、神経細胞の広範囲にわたる機能的結合に注目し、神経ネットワ-クの考え方に基づいて、網膜における感度調節のメカニズムについて熱力学的モデルを構築した。このモデルは、感度あるいは"強度"属性が神経ネットワ-ク系の熱力学的平衡状態により安定的にコントロ-ルされることを示すとともに、ガウス関数で表現される神経細胞受容野特性の生成過程を説明する。 次に、色相・彩度属性に関する色知覚は、CIE xyz表色系による色空間として表わされるが、これを、サンプリング理論に基づいて情報評価量と関係づけることにより、色変換過程について検討した。スペクトル変調に対する視覚系の解像度をフ-リエ解析手法を色空間に適用することにより推定すると、低周波数通過型で特徴づけられる錐体受容器が反応し得ない高周波数に対して応答していることが明かとなった。更に、色度弁別のデ-タをLineーelement理論に基づいて再検討することにより、従来の、明るさ・赤ー緑・黄ー青独立系による色覚モデルの不充分さが明かとなった。以上の解析結果を基に、色の知覚表現を説明する新たなモデルとして、赤ー緑系の並列処理過程を含む色覚モデルを構築した。このモデルは、反対色系が、最大情報量の確保、情報enhancementという重要な役割をしていることを明らかにした。
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