色彩・形態の多次元知覚空間の生成機構について、主として明るさ属性・色属性と形態属性との関係に関して検討した。明るさ系と色系の分化は、視覚系の初期の情報処理段階で生じ、並列処理の基本となっている。平成2年度においては、第一に、知覚の最も基本的な機構である感度調整に関して、神経ネットワ-クの考え方に基づいて検討した。知覚現象にみられる安定的かつ柔軟な感度調整が、ガウス関数で表現される神経細胞受容野特性と神経細胞の広範囲にわたる機能的結合により行われることを明らかにした。次に、色相・彩度属性に関する色知覚について、表色系で現される色空間をサンプリング理論に基づいて情報評価量と関係づけることにより、色変換過程について検討した。その結果、色系では、赤一緑系の並列処理過程により反対色系が最大情報量の確保、情報 enhencementという重要な役割をしていることを明らかにした。 以上の明るさ系・色系の並列処理過程の基本的機能の解析結果を基に、平成3年度においては、更に高次の情報処理過程の結果生成される形態知覚において、多次元的知覚属性手がかりがどのように統合されるのかを検討した。このために、形態知覚の基盤となる輪郭線の知覚、主観的輪郭線の錯視現象について、明るさ系と色系の機能的関係を検討した。その結果、刺激の幾何学的布置、順応状態により、輪郭線知覚への明るさ系と色系の関与の仕方が複雑に変化することを明らかにした。実験結果に基づき、輪郭線・形態知覚に関与する機構としてendーofーline検出機構とコントラスト検出機構を基本とするモデルを構築することにより、多次元知覚空間の基本となる明るさ・色・方向・長さといった知覚属性は、並列的に行われる特徴抽出により生成されるが、形態知覚においては、刺激状況に応じてこれらの手がかりが輻合的あるいは発散的に寄与することが明かとなった。
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