本研究は、社会的影響過程の典型であるリ-ダ-シップ現象に出現する性差の規定要因を実験的・実証的に吟味したものである。最終年度である平成3年度は、前年度に実施した地方自治体職員の意識調査のデ-タを詳細に分析するとともに、リ-ダ-シップ行動の性差に関する実験と自己定義方略の性差に関する実験を行った。まず調査資料の分析から、(1)「管理職としての女性」に対する一般的態度尺度を発展させ、さらに一般企業従業員標本を用いて女性管理職と男性管理職に対する態度を同時に測定できる尺度を開発した。男女の管理職に対する態度は必ずしも逆相関を示さず、また女性管理職への態度は女性上司のリ-ダ-シップM機能の認知傾向に関連を示した。(2)リ-ダ-シップ・スタイルの認知とそのモラ-ルへの効果を、上司と部下の性別組合せ別に吟味した。女性上司に対する男性部下、男性所長に対する女性保母のリ-ダ-シップ認知構造は従来のリ-ダ-シップPM論の知見と異なる部分が見出された。(3)性役割態度と勢力行使ストラテジ-の側面から、リ-ダ-シップの具体的な行動に現れる性差を実験的に検討した。課題自体の性度と自分の性が合致する場合に男女とも他者(部下)に影響を及ぼそうとする意図が増大したが、その傾向は特に男性に顕著であり、女性的課題の場合に男性のリ-ダ-シップは顕著に低下した。(4)性別カテゴリ-が顕著に意識されるのは所属カテゴリ-が多数派であるか少数派であるかではなく社会的文脈によって喚起されることを予備実験で確認し、性別が強調される文脈において採択される自己定義方略の性差を実験的に吟味した。女性はBemのいうジェンダ-・スキ-マを用いるが、男性は欧州の先行研究とは異なり、グル-プ・スキ-マを採択するという証拠は得られなかった。リ-ダ-シップに代表される社会的影響過程の性差要因について今後の研究に有用な基礎的知見を得ることができた。
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