本研究課題の下に4種類の実験を行った。第1は危機条件と非危機条件における大集団(40〜41人)の同時立体迷路脱出実験を行った。実験の結果、危機条件では非危機条件に比べて出発直後や分岐点や曲がり角で大渋滞が生じ、脱出所要時間や脱出所要距離が長くなることがわかった。また渋滞の発生と崩壊が繰り返されるために脱出成功者が間欠的に増減する現象も見いだされた。第2は危機事態における脱出効率の低下は利己的な行動をする少数者の存在のために引き起こされるのか、それとも没個性化や社会的促進による集団成員の平均的活動レベルの上昇によるものかについて検討した。そのために隘路状況を設定し、集団サイズに比例する形で出口の幅が変動するような事態を構成した。それでも脱出所要時間は一定とはならず、大集団の場合の脱出所要時間の増大は少数の利己的人物の存在だけでは説明できないことが明らかになった。第3は恐怖状況下及び無恐怖状況下において、曲がりくねった廊下を小集団(6名)が同時に避難する場合と単独で避難する場合について比較検討した。実験の結果、恐怖状況下の集団脱出条件では混雑発生や混雑発生時の方向転換数の増大により(このために方向を見失うことになる)出口に到達するための時間や距離が長くなった。しかし単独脱出条件では逆に、恐怖は脱出所要時間を短縮した。また恐怖が脱出行動に与える効果は迷路の形状に依存していることも示唆された。第4は迷路内のT字分岐路における経路選択行動について検討するとともに、それを基礎にして迷路内の人の移動を数理モデルによって表現することを試みた。具体的には、T字分岐路と1辺で連結されている全ての地点を通過する被験者の数の変化をマルコフ過程によって表すことを試みた。本モデルの場合、推移確率行列を分岐点における経路選択に関する実験結果を参考にして設定した。実験データとモデルによる理論値はかなり一致し、迷路内の人の動きがモデルによって予測可能であることが明らかになった。
|