広義の知識生成に関する実験を、料理という生活的分野と、彫刻、西洋画、書という視覚芸術の分野についておこなった。前者については、大学生を対象に、「特別おいしいカレ-」、「ルウを使わないカレ-」、「珍しいカレ-」などの作り方を記述させ、分析した。その結果、経験の多いものは、少ないものに比べ、最終産物において識別し得ない要素にも言及する、ある要素をより細かい要素の組み合わせとして再現し得る、新奇な材料を付加する際にその範囲がより制約されることが示された。 後者に関しては、各領域1名づつの熟達者に対するインタビュ-に基づいて、作品完成までの過程について検討した。3人の塾達者の創作の過程は、用いる材料の違いや、最終作品の短期間(短時間)で仕上げるか(書)、長期間にわたり徐々に仕上げるか(彫刻、西洋画)、という領域ごとの制約の違いはあるものの、メタレベルでみると共通した段階があることが示された。アピ-ルしたいメッセ-ジがあり、それを表現したいという強い思いがあるがそのメッセ-ジはまだ明確な形をもたない第1段階、簡易材料を使って、メッセ-ジの内容と最終的な作品の形を明確にする(場合によっては、簡易材料を使わず概念的媒体だけでその作業をすることもある)第2段階、本材料を使ってプランの具体化をする第3段階である。第2段階ではかなり長期間にわたって試行錯誤が繰り返されるが、第3段階もプランを機械的に本材料に置き換えていく、という単純作業ではない。細部についての多くの決定だけでなく、本作業の制約(簡易材料より制約がきびしい)に合わせるためのプランの微調整が必要な場合があるからである。
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