研究概要 |
本研究の目的は、異なった方向に置かれた2つの3次元形態の異同を人間が判断する場合、情報タイプ理論(Takano,1989)による予測が事実と一致するか否かを実験的に確認することであった。この理論によると、それらの形態の間の相違が「相対方向情報」のみであれば、異同判断をおこなうに先立って、方向を揃えるための何らかの変換操作が必要となることが予測される。典型的には、「メンタル・ロ-テ-ション」と呼ばれるイメ-ジ回転が遂行されることとなり、独立変数として2形態間の角度差を、従属変数として反応時間をとった場合には、反応時間は角度差の単調増加関数となるはずである。これは、ShepardとMetzler(1971)の実験の中で既に確認されている事実である。一方、2形態間に「同定情報」または「配置情報」における相違が存在するときには、方向変換の操作をおこなわなくとも異同判断が可能であると予測される。すなわち、メンタル・ロ-テ-ションは不要であり、反応時間は角度差にかかわりなく一定の値をとるはずである。こちらの方の予測はまだ実験的に確認されたことがなかった。 本研究の実験においては、後者の予測、すなわち、同定情報または配置情報が相違する場合に反応時間が一定になることは確認された。しかしながら、相対方向情報のみが相違する場合に反応時間が角度差の単調増加関数になることは、ShepardとMetzlerの報告の反し、明確なかたちでは確認できなかった。この結果は、情報タイプ理論に内在する問題に由来するというよりは、実験手続き上の問題に由来するものである可能性が高いと考えられるので、現在、実験手続きを改訂し、実験材料を作成し直して、新たな実験を実施する準備をおこなっている段階である。
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