研究概要 |
1.昨年度に引き続き,ヒトの頭皮上から記録される事象関連脳電位(ERP)を指標として,注意・認知に関わる心理学的な諸問題の解析を試みた.特に本年度は,昨年度に新たに得た知見と反省点を踏まえ,以下の点に問題を絞って検討を加えた. 2.選択的聴取における視線方向の影響:眼球位置が聴取方向のガイダンス的役割を果たすという仮説を検討するため,通常のERP分析のほかに,各刺激系列の第1刺激に対するERPのみを算出して,視線と聴取方向が同じ条件と反対の条件で比較した.その結果,ガイダンス仮説の予測どおり,同方向条件にのみ明瞭なNd波(注意関連陰生波)を認め,選択的手掛かりを形成する先行刺激がない場合にも,視線の補助を受けることによって選択的聴取が可能となることが示された. 3.視覚選択的注意:昨年度のビデオ・モニタ-に代えてタキストスコ-プを用い,昨年度と同様の上・下視野パタン刺激への選択的注視実験を行った結果,視覚受容野起源とみなせるVEP・C2成分に注意に伴う振幅増強がみられた.本結果は先の結果を支持し,視覚1次野ないし視覚前野のレベル,あるいはそれ以前のレベルで感覚入力選別の注意関門機構が働くという考えが再び示唆された. 4.視覚認知:相貌認知課題における言語的手掛かりの役割をさらに詳細に検討した結果,未知の顔でも反復呈示によって左半球(ウェルニッケ領野)に優勢な陰性シフトが生ずることを認めた.本結果は,被験者の内省報告から推察すると,既存の言語手掛かりのみならず,実験中に新たに形成した言語手掛かりも使用されることを示唆しており,相貌認知における言語系の関与がさらに強調された.
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