「農村地域における在宅ケアの実態に関する比較研究」という課題で1990年度と1991年度の科学研究費の交付を受けた。初年度は、長野県佐久病院、新潟県大和町のゆきぐに大和総合病院の在宅ケアの実践、ならびにそのプログラム化について調査を行った。91年度は、新たに岩手県沢内村の沢内病院を対象に加え、在宅ケアを準備する地域医療の実態に関して調査を行った。この三つの事例は、病院の所在地の自治体の規模、病院の大きさや経営状態、また病院のカバ-している範囲などさまざまな差異があるが、共通しているのは、在宅ケアの実践に対して、医師集団が果している役割が大きいことである。医師たちが、地域の保健、医療、福祉をつなぐパイプ役を演じており、保健婦、看護婦、理学療法士らと連携をとりながら、地域医療のプログラムをつくり、それを実践している。最近は、「キュアよりもケアを」という声もきかれるが、治療や緊急時の処置に対する不安がなくならなければ、家庭における看護もなりたちがたい。この点からすれば、この三地域は、訪問診療、往診と形は異なっていても、医師が地域へ出てゆくことが保障されているし、なによりも医師の専門性を生かした指導のもとに在宅ケアがなされている。入浴サ-ヴィスなどに代表される在宅でのケア水準の維持については、三つの事例ではバラつきがあり、とくに受け入れ側である家庭の問題については、今後個々のケ-スにあたって詳しく分析される必要がある。在宅ケアはこれまでも行なわれてきたし、今なおさまざまな問題をかかえながらおこなわれている。よりよい在宅ケアのシステム化のために、この三つの事例にとどまらず、事例を多くしてその実態について解明する必要がある。
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