研究概要 |
今日,民族問題は世界的規模で表面化している。その際,最大の問題は,民族がブルジョアのイデオロギ-だとするマルクス主義の議論であろう。民族を代表してきたのはブルジョアジ-ではない。近代人が自由な人間のヒュ-マニティを政治の根本におこうとしたとき,否応なしに人間は一定のことば・文化・価値観・伝統をもち、それが民族という形をとらざるをえなかった側面がある。 わが国において「民族」とは,その語源からすると「民」は「くらいもの」「無知な者」を意味した。「目」をつけると「眠」となる。「民」は,ピュ-プルではない。それに対してヨ-ロッパは「ネ-ション」「ナシオン」,ロシア語の「ナロ-ド」もフランス語のnai^^<^>tre(産む)から派生している。つまりネ-ションは,自らの文化のル-ツを深く問うところがあり、ブルジョア社会から起こったということに拘泥する必要はない。 こうした前提を論究しつつ,本研究は比較社会学的視点にたって,次の点を考察した。1.西欧諸国の民族問題と共和国・自治州などの政府間関係の緊張解決策。2.西欧10ケ国での脱伝統的価値の調査結果を吟味し,存日西欧人の価値における適応・不適応のリサ-チの条件づくり。3.ヨ-ロッパにおける移住民と受け入れ国の国民との摩擦に関する政策の限界と問題点。4.北アメリカの国家とその下位集団たるエスニック・グル-プとの関係を,フランス系三集団に焦点をあてたケ-ス・スタディ。5.欧米の日本人論を普通理論ー特殊理論,好意(肯定)的ー否定的の観点から整理し,普遍・否定(封建残存・近代化)から特殊・肯定(ユニ-ク礼替)や特殊・否定(ユニ-ク非難)へ推移している事実の明確化。6.日本人の不透明な民族論への新しいアプロ-チ。 総じて民族の比較社会学的枠組の土台づくりの成果をえた。
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