本研究の目的を達成するため東北地方の村落社会を研究対象とすることに定め事例的実証研究を実施した。対象地は北上山系山村及びそれと社会的、文化的、経済的関係において密接な関係を持つと見られる沿岸部の村落を予定し、主としては宮城県登米郡東和町を集中的に研究調査を実施した。他に同本吉郡津山町、歌津町、本吉町の基礎的資料の収集も行った。 本研究においても明らかになったことは、北上山系南端山村の事例に象徴的に見られるように、地理的条件に規制され生産基盤が脆弱な山村では、国家の政策の手も伸びず一層厳しい生活環境になっている。しかし定住する住民にとっては自分たちの構築してきた生活基盤であるだけに容易に捨て去ることはできない。農林業がそれなりに存在意義が認められいてた時は、生産基盤が脆弱な山村でも住民は互いに協力しより良い生活環境をつくるため知恵を出し合う機会も多かったが、近年は農林業で生活を維持できないため地域外に就労の場を求めている住民も多く、人々の生活のリズムや地域生活への姿勢がそれぞれ違ってきていることなどから地域生活にも問題が生じてきている。そのため、例えば進展する高齢化や地域文化の継承などの課題に対する地域社会としての対応が困難になるだろうと推察され、このような地域では新しい生活の枠組みを構想し構築していく必要があると考えられる。 地域社会が確たるものとして存続していくためには内に素晴らしい地域文化を含み、また創造する要素を内包しつつそれを次の世代にしっかり継承して事も、生産基盤の確立と同時に重要である。北上山系南端の村落社会では今、かつてムラの子供達から大人たちまで参加した旧盆の流燈会や子供達の鳥追い行事が復活されつつある。これらには後に続く後輩がそれらの行事を遂行できるための方法・技術体得の仕組がある。
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