研究の初年度に当たる本年度は、米作を中心とする農業および農村の環境条件に関して70〜80年代の国内外の社会経済的動向と農家・村落の動向について若干の整理を行った。 80年代における米作農家の経営環境をめぐる決定的な変化は、85年頃を画期とした日本資本主義の構造変化を背景として、日本農業のあり方に対する国内・国外からの直接的批判が高まり、従前のような政策的保護の枠内での経営に何等かの積極的対応が求められてきたことである。さらに、86年の農政審議会「21世紀に向けての農政の基本方向」は、市場原理を導入した農業構造の再編方向を打ち出した。端的に言えば、米作農家はほとんどその用意のないまま「競争」という環境の中に放り込まれようとしている。 このような状況のなかで、今日の農家と村落は、階層間分化および地域間分化という二重の分化を示しているといえる。つまり、まず米作専業農家は一部の大規模経営を除ききわめて大きな危機意識を持ち、自由化阻止・食管制度堅持を主張しながら、複合化やさらなる規模拡大の追求など必死で経営存続のための方途を模索している。これに対して圧倒的多数の兼業農家は、多くの場合すでに安定した所得獲得機会を有しているが故に、危機意識も小さく、最終的には飯米が確保されればよいという程度に将来を見通し、食管制度にも自由化にも比較的無関心である。一方、地域的には北陸の良質米産地では、競争に勝ち残れるという自信からか、危機意識は比較的少なく、逆に北海道や東北地方などでは事態を非常に深刻に受け止めている。さらに、多くの過疎地帯では危機意識を通り越した一種の「あきらめ」が強まっている。村落としては、構成農家の経営構造や意識が多様化してきているために、村落としての合意形成が困難になってきているというのが実状であるが、現実には、さしあたり農協の農政運動をひとつの拠り所として農家を結集するか、生産の組織化を図るか、あるいは個別農家個々の対応に任せるか、などの選択に迫られている。
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