本年度は、研究課題に関し、特に現地調査を中心に研究を進めた。そこから、得られた研究結果は概ね以下の様に要約できる。 1.ガットでの農業交渉の決着が延び延びになっている情勢の中で、米の輸入自由化に対する米作農家の先行き不安はあるものの、調査地(長野、新潟、山形、青森)では、自由化圧力の強まりという稲作環境の変化に対して、強い危機意識とそれに基づく積極的対応は必ずしも認められない。 2.調査地別に見た場合、概略以下の傾向が指摘できる。 (1)長野県の過疎山村においては、従来米作への依存が少なかたっために、自由化を深刻には受けとめていない。(2)新潟県の良質米地帯では、たとえ、自由化となっても、良質米を産している限り、むしろ競争には生き残れるとの見通しのうえに、少数の専業的農家は今後の経営規模拡大への意欲をみせ、その機会を窺っている。(3)山形県の米単作兼業地帯では、兼業所得のうえに、自由化が農家経済全体に及ぼす影響は少ないとみて、対応に積極的でない。むしろ、行政が農家のそうした意識や対応を不安に見ている(4)青森県のリンゴ・米複合経営地帯では、1991年秋の台風の影響でリンゴの被害で甚大であっただけに、米に依存する度合が低いとはいえ、リンゴ被害を含めて農家経済はきわめて因難な状況にあり、自由化に対してもこれとの関係で深刻に受けとめているが、稲作部門を積極的に強化しようとする動きはない。 3.一方、村落としての対応は、調査地全体を通して明確な形を示しているとは認めがたい。それは、村落の農家が異質化し、その営農志向が分化の度合を強めているだけに、集団としての意思の結集と統一が因難となってきていることによるところが大きい。
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