米の消費減退、輸入自由化圧力の強まり、これらを背景とする政府の農業政策の基本枠組みの転換など、米作環境は従来とは大きく変化し、客観的にみれば、これに対して米作農家は厳しい対応を迫られている。しかし、総じて現実の米作農家は、ごく少数を除いて、かならずしもそうした事態を自らの農業経営と生活の将来を決定づけるものとしては受けとめておらず、また農家の集団である村落もこれに対して積極的に対応する力を失っている、というのが本調査研究から得られた端的な結論である。 それは、米作農家のほとんどが兼業化しており、農外所得のうえに比較的安定した経済生活を営んでおり、たとえ米の輸入自由化により米作収入が減じたとしても、農家経済全体として被る損失は少ないと判断していることによる。しかし、調査地域全体を通してみられる環境変化に対する農家の対応姿勢は、基本的には稲作経営に関して個々の農家が持つ諸資源(保有耕地、労働力とくに後継者、機械・施設など)と将来の営農志向・生活設計の在り方、周辺農家の将来志向などによって左右されている。たとえば、経営諸資源を多く有し、将来も米作を継続しようとする農家ほど環境変化を危機的に受けとめ、経営の合理化・生産コストの低減を実現すべく規模拡大の機会獲得に意欲的であり、また米以外の経営部門の取り入れを通した安定的経営構造を今から創り出そうとしている。逆に、経営資源をもたず兼業依存の強い農家は、一方で一種の諦め感を持って、他方では楽観的に受けとめている。これらの農家にあっては、経営の世代交代期や機械設備の更新期に離農ないし飯米自給農家に転換せざるを得ないと考えているものが少なくない。 一方、調査地で見る限り、村落はそうした農家の意思を調整しながら、米作を地域的に再編成してゆくだけの力を発揮しえていない。
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