1980年代は経営の多角化・異業種進出、分社化・子会社化の進展であり、人事・雇用管理にも変容が見られた(賃金制度、昇進・昇格・昇給システムの能力主義化、雇用の多様化と中高年層を中心とする出向・転籍の増加等)。そこから「日本的雇用慣行」の「変容」が主張されるようになってきた。 中途キャリア採用が増加したように見えたが、それは一時的に不足した専門的能力を持った労働者の雇用でしかない一時的現象であり、中途採用者の処遇も、スカウトされたと想定される一部の特定能力を持った者を除けば、同年齢の新規学卒採用者と同等かやや低い水準であった。そして現在も新規学卒者一括採用が採用形態の基本である。 賃金に関しては、資格給、職務給、能力給等の「能力主義的」要素が制度化され、昇進・昇格がなければ昇給しないシステムが一般化した。しかし、賃金実態は学歴別年功型賃金の姿を示しており、年功型賃金が「崩壊」したとは言い難い。しかし、選別は強化されていた。賃金、昇進・昇格に学歴間格差は歴然と残り、年功的処遇も維持されていた。また、出向や転籍で大量の中高年齢層を排出したとはいえ、慣行としての終身雇用も維持されていた。 「日本的雇用慣行」の適用を受ける労働者の割合は高度経済成長期に比べて減少したが、また制度的にはそれを否定する諸制度が普及したが、人事管理の運用の実態としては現在までのところ、学歴別年功処遇と終身雇用は維持されていると言ってよいであろう。 しかし、今後大企業において大卒者割合が増大し、かつ従来の技能の陳腐化が進み新たな専門的職務が生まれるという事態は、「日本的雇用慣行」を「変容」させていく方向に働くであろう。同時にそのことはますます管理中枢部門や研究開発部門に着く労働者には定着性と企業忠誠心を要求することになるだろう。
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