本年度は、デュ-イ哲学の認識論的側面に焦点をあて、その現代的意義を検討した。それにアプロ-チする方法としては、R.W.スリ-パ-やR.D.ボイスヴァ-トなどが提起したように、「経験の存在論」と「経験の論理学」との統合がデュ-イの「探究理論」の特徴であるという見解を念頭において、反省的「経験」としての探究の考察をおこなった。 1、デュ-イの探究理論が経験の存在論と認識論を統合するのに成功した理由は、その「状況」の概念の導入にある。彼の探究理論は、人間の「経験」の再構築と人間が巻き込まれている環境的「状況」の変容という二つの課題を同時に追求することを可能にする。探究理論に基づいた教育論は、この二つの課題を追求する。 2、彼の探究理論の過程は、独自の「パタ-ン」と「構造」をもつ。探究には共通の時間的過程・論理的操作・命題的構造がみられる。これはボイスヴァ-トが経験の「論理学」と呼ぶものであり、彼自身は十分に考察していない部分である。 3、探究の過程は基本的には「社会的」である。経験の再構築や状況の変容を「道徳的自己」や「探究共同体」の実現という課題と関連づけるのは、コミュニケ-ションという相互主体的や機能である。探究的教育論は、この点において、コミュニケ-ションを媒介とした自己実現や教育的共同体の形成という課題を取り扱う。 今後の課題は、探究理論・コミュニケ-ション理論・美的経験論に基づいたデュ-イ教育論の再構築の可能性を、ハバ-マスやガダマ-との比較を通じて追求することである。
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