先ず、本研究は、その研究課題名からも明らかなように、日米比較をその最終目標として構想していたものの、研究最終年度までの研究成果が、日米両国の比較考察まで到達し得なかったことを前もって断っておかなければならない。その主たる理由は、米国の教科書行政システムが各州ごとに極めて多様であるため、結局のところ各州ごとの教科書行政システムを個別事例的に精査していかなければ、その実際的態様に肉薄することは極めて困難であることが判明し、研究の基本的方向性を大幅に修正せざるを得なかったことによる。 従って、本研究に与えられた研究期間内において着手・解明できたものは、米国、中でも州集権的システムを採用するカリフォルニア州における教科書行政システムの歴史的変容・発展過程の、しかもその一部に止まらざるを得なかった。 そこで、本研究の具体的成果は、あくまで中間報告的な位置づけとしてではあるが、以下のような知見を提示することができよう。第一に、州集権的教科書行政システムの採用は、教育内容の直接的統制をその主たる目的とするものではなく、むしろ教科書行政に要する費用の軽減と一定水準の教育内容の維持を眼目としていること、第二に、無償教科書制度の導入は、公教育の実質的無償化を促進し、児童生徒の教育を受ける権利を強く保障するものであるが、他面、州統一教科書採択制度を側面から支援、強化するねらいが存在していること、第三に、州教科書行政関係機関は、その創設主体である州議会と良好な関係を保持しているとはいえず、むしろ一定の緊張関係の中で、その業務を遂行していること、そして、その理由は、州議会の各種規制の裏に多くの圧力団体の影響が介在しているためであること、等である。
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