調査の開始に先だって国立国会図書館、東京都中央図書館等の所蔵資料によって文献調査を行った後、7月より今年度の現地調査を開始した。実施した調査地は、(1)和歌山県田辺市および新宮市とその周辺地域、(2)石川県能登地方を中心とする石川県地方、(3)山形県鶴岡市および羽黒山、(4)京都市、(5)岩手県宮古市およびその周辺地域、(6)愛知県名古屋市、三重県四日市市、(7)徳島県徳島市およびその周辺地域、である。ただし文献調査の対象は上記にとどまらず、青森県津軽地方や愛知県一円など広範にわたった。これらの調査からつぎのような傾向が判明してきた。なお現在これらの調査と並行して、各地の道中記の所在および公用文書等にみられる参詣記事のデ-タベ-ス化作業を進めているところである。 1.当然のことであるが、地域によって固有の大小参詣地がそれぞれに存在する。たとえば山形県鶴岡地方の羽黒山、愛知県一円の木曾御岳山、徳島県徳島地方の四国霊場、青森県津軽地方の岩木山、などがその一例である。しかしすべての地域に卓越した近隣の参詣地があるとはかぎらない。社会的文化的に中心になる都市の有無や、歴史的な経緯をふまえてそのような差が生じたと考えられるが、詳細な検討は次年度に送りたい。 2.一方、伊勢参詣は遠近を問わず、普遍的に行われた。ただし、遠隔地からの参詣者はしばしば詳細な道中記等の記録を残し、帰村のあとも参詣供養塔を建立することが希でない。また一体に大規模な集団になりがちである。地方、近接地からのそれは恒常的な伊勢講を基盤にしており、比較的小人数で、しかも記録を残すことがほとんどない。
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