本研究は、古代以来列島内外の文物の交流の大動脈としての地位を占めていた瀬戸内海地域に中世後期に成立した大名領国を主たる分析の対象として、中国・朝鮮・ヨ-ロッパとの貿易を含む流通のひろがりと、その担い手であった商人・運輸業者・海賊衆などの活動と、それに積極的に関与していった国人領主や大名権力の動向などを明らかにし、人や物の交流を支える経済の構造を明らかにすることを目的にしている。 両年度にわたって各地において史料菟集調査を進めた。とくに東京大学文学部、同史料纂所、京都大学文学部、九州大学文学部、山口県文書館、福岡市博物館、神戸市博物館、長崎市博物館、沖縄県立博物館、長府博物館等において、未刊、未包の関係史(資)料の菟集調査を進め多くの成果をあげた。 それらの整現・分析の結果、特筆すべき成果として3点をあげたい。 第一は、「村上家文書」に基づいて、海の大名と言ってもよい「海賊」能島村上氏の支配構造の全体像を導き出しえたことである。そこでは海に生きる人々の視座から、従来のような能島村上氏を陸の戦国大名毛利氏の「水軍」としてとらえる包解を排除し、その固有の性格について明らかにした。 第二は、「新出沼元家文書」に基づいて、河川水運を担った沼元氏の構造と発展相を明らかにしたことである。内陸部に本拠地を有する領主であっても大河に臨む地域においては、その基盤を農業生産力のみではなく水運・流通において発展する面のあったことを明らかにした。 第三は、「益田家文書」に基づいて、海洋に臨む国人領元が大陸貿易を展開し、また海産資源を重視・利用していたことを明らかにした。 なお、第二の成果についてはこのたび刊行しているが、ほかの二つについても近いうちに公表する予定である。
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