研究概要 |
第1に、入華プロテスタント宣教師ホブソンB.Hobsonが執筆した中国語科学書『博物新編』について考察した。本書は中国人学徒に近代自然科学の基礎知識を養成する為に執筆したものであり、平易にして視覚的にも分り易い構成を採っていること、文中の適切な箇処にキリスト教解説的な内容を盛り込んだことに大きな特色がある。なお本書は幕末期のわが国にもたらされ、訓点本の他、和訳本も刊行され、明治時代に入ってもさまざまな形で刊行されたことについても調査した。第2に、入華プロテスタント宣教師の中国語著作の日本流入に対し、幕末期仏僧の対応がどのようであったかについての一例として、勝国道人が執筆した『護法新論』(1865刊)について考察した。本書は幕末より明治にかけて執筆された多くの排耶書の中でも、西洋天文学に対する論駁を目的とし、仏教的天文学を本格的かつ実証的に展開した点において、一つの際立った特色を持っている。本書では、入華宣教師の中国語著作を数多く引用しつゝ、これに対する反論を展開しているが、これは別の一面よりいえば、入華宣教師の中国語著作が、幕末期のわが国に与えた影響が多大であったことを裏書きするものといえる。第3に、入華プロテスタント宣教師が刊行した中国語著作を、(1)聖書の中国語訳,(2)聖書以外の中国語布教書,(3)西洋近代学術の解説書もしくは西洋事情の紹介書の3種に分けて、それぞれの伝道史的意義を大きく把握することに努めた。なお、これらの中国語著作が、幕末明治初年のわが国に数多く流入し、近代日本の黎明期に多くの影響を与えたことについても、大局的に考察した。
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