本年度の研究では、上記研究課題のもと、11・12世紀ヨ-ロッパ世界の中にノルマン期イングランドを歴史的に位置づけることをめざした。具体的には、イングランドにおけるカンタベリ-とヨ-ク両大司教座教会の間における首位権論争を取りあげ、まず、論争過程を跡づけたのち、ついで、ロ-マ教皇座に対する両大司教の働きかけの異同を明らかにした。さらに、イングランド国王との関わり、両大司教と大司教座教会参事会との関係が、両大司教の行動を左右したことを論証した.国王やロ-マ教皇との関係が首位権論争に影響を及ぼしたであろうことは予想されたところであるが、両大司教の立場を決定したのが、イングランドから大陸にしばしば派遣された使節のもたらす情報の正確さや教皇側近へのロビ-活動であったこと、また12世紀前半になると司教座教会参事会のアイデンティティ-の確立が認められ、それがこの論争において一定の役割を果していたことを指摘した。情報やロビ-活動の重要性、教会参事会のアイデンティティ-の確立といった要素は、イングランド以外のノルマン征服地において、また各地の司教座教会において同様に重要な役割を果していたはずである。本年度内には、イングランド以外の事例については研究成果の公表はできなかったが、今回収集できた文献史料を利用しながらの研究は継続しており、今後、十分な研究に基づく成果発表を行なうことが残された課題である。当初の計画であげた、イングランドの事例と他の地域の事例との比較分析という手法は、今回の研究からみて、さしあたってイングランド内においても各司教座ごとの比較分析をしてみる必要性を再認識するにいたったわけであり、少々修正が必要なのかもしれない。
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