(1)炭化植物種子の同定 出土した炭化種子の収集と同時に、現生の雑草や栽培植物種子については時間と温度を幾通りかに設定して人為的に炭化させ、形態変化に関するデータを集積した。集められたデータは遺跡名・年代を付して、スキャナーでMacintoshに入力、画像データ・ベースとしている。 (2)検出された種子から考えられる東北・北海道地域の農耕問題 「縄文時代早期」 栽培植物の存在を推定させるような確実な炭化植物遺体の検出は出来なかった。 「縄文時代前期」 北海道南西部においては、ヒエ属Echinochloaの積極的な利用が認められる。ヒエ属Echinochloaの馴化が始められた可能性が考えられる。 「縄文時代中期」 北海道南西部においてはヒエ属Echinochloa穎果の膨張が観察されるが、その頃の縄文土器圏の核センターと思われる東北地方の縄文時代中期遺跡(青森県富ノ沢遺跡)からは2961粒の炭化ヒエ属種子が検出され、いわゆる縄文ヒエの実態に迫り得た。この地域の周辺がヒエの馴化にとって重要な地帯であるらしい。 「縄文時代後期」 青森県八戸周辺の遺跡において、コメOryza sativa L.が存在する可能性が判明した。しかし、これが現地で栽培されていたかどうかについては確証が得られていない。 「縄文時代以降」 青森県において、縄文時代直後の時期からコメ、オオムギ、コムギ、ヒエなどの栽培植物が存在しており、弥生文化の影響が明確に認められた。
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