縄文時代の漆櫛について、全国的な出土状況は40遺跡以上、200点を越える。本年度の調査では、最大限実見することに努め、この間には写真撮影・実測などの記録をおこなった。このほかの漆櫛の資料についても、関係する報告書などを収集し、デ-タを蓄積した。この間のデ-タの精査は、今後の作業にも残されているが、現時点では次のような結論を得ている。 〈1〉漆櫛の形態は、櫛頭部(櫛本体)の形の転いにより、大きく5〜6種類に分類できる。具体的には、(1)角状突起を強調する形(縄文前期に属する福井県鳥浜貝塚例)。(2)台形を基本とする型(この漆櫛は、北海道の縄文後期後半から晩期初頭にかけて盛行する形であり、埼玉県寿能遺跡、秋田県中山遺跡、岩手県萪内遺跡などの縄文後期遺跡や、青森県是川遺跡などに類例をみる。)。(3)方形を基本とする形(縄文晩期の東北地方に盛行する形である)。(4)逆台形を基本とする形(縄文晩期の東北地方、関東地方、および北陸地方などに盛行する形である)。(5)半円形及び長半円形を基本とする形(縄本晩期の東北地方、関東地方などに散見する)。(6)以上1〜5の基本形の他に、本体頂部に異形を伴う形(縄文晩期の北東北地方に散見する)。今後、こうした分類結果を元にした系譜などについて問題を整理していきたい。 〈2〉漆櫛の構造・材質については、実体顕微鏡、光学顕微鏡、走査型顕微鏡、さらに軟X線透過装置などによって観察をおこない、材質については蛍光X線分析、X線回析、EPMAなどによって知見を得た。主に、北海道出土の漆櫛を対象として検討を進めた。その結果、(1)櫛歯の結束手法についてー櫛歯、横架材、結束糸などの材質、及び相互の構造的関連性、(2)塗りの手法についてー櫛歯、塑形材、塗膜(漆膜、顔料など)の材質、及び相互の構造的関連性などについての知見を得た。ただし、全国的な視野に立った場合での技法的な異同を論じるところまでは至らず、今後、関連報告書を重ねる中で、問題を整理していきたい。
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