研究概要 |
本研究の目的は、室町時代から現代に及ぶ約650年の間に作られた約2500番の謡曲について、簡にして要を得た解題を作成することにある。特に,大正八年に出版された丸岡桂の先駆的研究『古今謡曲解題』(完曲832番)の精神を継承し,その後に発見された1700余種の能本を加え、能本研究の成果を基に、各曲を主題や主人公や題材等を加味した内容別に分類することにある。各曲の解題は、登場人物・時・所・梗概・本文の所在・作者・成立・演能記録・類曲との比較などを簡潔に記すことをめざす。『新・古今謡曲解題』作成に着手した初年度は次の点を進めた。 1、『古今謡曲解題』刊行後に発見の1700番について解題の作成を進め、その第一作業として、『国書総目録』第六巻の「能の本」の項目に拠りつつ伝本調査と確認を行った。しかし,数が多いのでまだ途中にある。 2、各曲解題は、上記の項目以外に、同名異曲や異名同曲の弁別に努め、他曲との関連(影響・翻案・改作等)の解明にも留意した。 3、分類は新発見の諸曲もあって『古今謡曲解題』よりも細別した。例をあげると、歌人及俊秀の項(小野小町・在原業平・桧垣の女・紀貫之・紫式部・和泉式部・式子内親王・小侍従・西行法師・楽舞・雑)に、さらに能因法師・兼好・宗祇・兼載・貞徳・芭蕉を加えた。 4、能本の博捜にも努め、新発見の作品もあった。一つは八戸市立図書館南部家文書のうち番外謡本の中に「玉川」(同名異曲)を発見したこと,もう一つは観世流シテ方河村隆司氏(京都在住)所蔵の「京都所司代森脇家文書」のなかに「祇樹園」なる曲を発見したことなどである。 5、能本の調査と研究は、主に写真による蒐集に努めた結果、引伸し等、写真関係の支出が多くなった。また原稿整理や作成に若い人の助力を得つつ進めたが、解題の作成には現行曲・廃絶曲はもちろん,各地の伝説や伝承、寺社縁起、事件その他、幅広い知見の必要を痛感した。
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