〓南方言は資料も豊富で先行研究も水準が高いが、アクセントの分析は不十分であった。〓南方言のうちの台湾語を対象に、この方言に広く見られるいわゆる「軽声」neutral toneの記述を試みた。この種の現象は福州など〓東方言にも存在らしいが、いまだ記述分析されたことがない。これを手がかりに〓方言比較アクセント論が可能であることが分かったので、引き続き推進したい。因みに、現在の台湾における〓南語の標準化と文字化運動は、〓語の世界ではこれまで見られなかったもので、〓系言語の言語学的性格を観察するための一助となると判断し、運動の動向と問題点を指摘した。 〓南方言は海洋的な言語として、福建南部から海外にまで広く分布するが、〓北方言は山岳的言語であって、長い期間孤立してきたので、解明が遅れている。しかし、浙江、江西側からの不断の移民流入による撹拌を受けてきたので、〓方言成立の鍵を握るのである。建陽、建甌方言については文献資料がよく揃っており、比較的信頼できるので、それらを対象に音韻論的分析を進めている。 しかし、最も重要な鍵を握るのは、福建最北部の小方言であると思う。なかでも浦城県城内のいわゆる浦城方言は、中国の研究者の分類では呉方言とされているし、ネイティブの語感でもそのようであるが、音韻論的に分析してみると、声・韻・調どの面においても多くの〓方言的要素が混合している。そこで、これを〓語と呉語の混合型方言と規定し、〓語層と呉語層をふるい分ければ、〓語最古層の一面を発掘でき、〓語の形成過程を追跡する格好の手がかりになると予測される。そのため、浦城方言の音韻、語彙についての全面的記述と音韻論的分析を行った。加えて、〓語と呉語の古代中国語における位相をこの方言資料を手がかりに論じた(この論文は現在執筆中)。
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