研究概要 |
「金瓶梅詞話」という小説は,話として設定されている時代が北宋末で、その頃のことを書いてあるようだが,実際に描かれているのは,作者が日頃見聞を重ねていた明代の社会事象であろうというのが,呉〓、鄭振鐸の両氏以来の定説になっている。では,明代のいつ頃のどのような社会事象が描き込まれているのかが、次に問題となり、是非この点が解明されなければならないであろう。なんとなれば、作者が誰なのか未だ定説を見ていない現状においては,この点の解明こそが,作者が何故この小説を作ったかを考える上において重要な手懸りとなると考えられるからである。本研究遂行者(荒木)は,当初,平成二年度において,「金瓶梅」中に描かれている漕運の意味の解明を企図したが,未だ充分なる解明に至っていないので,この点に関しては,平成三年度以降ひきつづき研究を続行することとし,以下は、平成二年度に作成した論文を中心に研究実績の概要を報告することとしたい。まず,“「金瓶梅」補服考"においては,この小説の主人公西門廣がつける獅子の補服に着目し,本来武官の一品ないし二品の者にして始めてつけることが許された獅子の補服を、従五品の提刑所副千戸たる西門廣がどうして身につけることができたかという点の解明に力を注ぎ,結論として,嘉靖から万暦にかけての随筆類に、その頃の武官と宦官とに服飾違反のあったことを伝える記事が多く存在することから,「金瓶梅」は恐らく、そのような風潮を極めて忠実に写したものであろうとした。“「金瓶梅」に描かれた役人世界とその時代"では,「金瓶梅」に登場する官吏の動向に着目して,1、その動向が、物語の展開とともに蔡系を中心とするものに変りつつあること。2、しかも,その諸官の動きが整然としていて,かなりち密な構想のもとに作られていることが判明する。本稿では,これらの動向に嘉靖時代の官僚動向が投影されている点を明らかにした。
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