研究概要 |
平成二年度にひき続き,本年度も「金瓶梅」に投影された明代の時事についての解明に力を注いできた。 まず、「金瓶梅」という小説は,話として設定されているのが北宋末ではあるが,実際に描かれているのは、この小説の作者(未詳)が生存していた明代のことだとされるけれども,作中の一体いかなる部分からこのようなことが言えるのか,また一口に明代と言っても,前後約三百年間のうちの一体いつのことが書かれてあるのかが問題となる。これらの問題に関しては,呉〓氏の論文以来研究されつづけてきたが,今回,それらの研究成果をふまえつつ,新たに得た知見をも加えて,作中に用いられている明代の用語を広く集め,それらの用語から,「金瓶梅」の時代的背景と地理的背景を解明しようとしたのが,拙論「『金瓶梅』に見える明代の用語について」である。明代の用語としては,地名官職名の外に、広く明代の用語と思われるもの112条を挙げ,これらの用語から、「金瓶梅」の執筆時代は,嘉端末より万暦初年にかけてであること,また地理的には,山東省の比較的細かい地名までも書き込まれていることから,この小説の作者が一定期間山東省に在住した可能性が大であること等を推定した。また,「金瓶梅詞話」の改訂版である崇禎本「金瓶梅」における改作者ならびに改作の時期についても,広くこの小説の創作意図にかかわってくる問題であるが,この点に関し,本年度において重要な手掛りを得た。つまり、崇禎本において、各回の冒頭にある詩詞をほとんど書き改めているが,今回,それら詩詞のほとんどが先人の作品からの借用したものであることが判明した。さらに注目すべきは,それら先人の中に,万暦時代に活躍した文人ー馮〓・王穉登等ーが含まれていたことである。このことにより,崇禎本の改作者が.馮〓や王穉登と交際のあった万暦の文人であった可能性が極めて高くなった。
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