「金瓶梅」という小説は、これに先行するおびただして素材を継横に駆使して作られており、これがこの作品の創作手法上の重要な特徴の一つとなっている。他方、この作品では話が北宋末の出来事として設定されているけれども、実際に描かれているのは、この小説の作者(未詳)が生存していたと思われる明の嘉靖末から万暦初めのこととされる。以上のことから、作品に書かれているさまざまなことから作者が生きていた時代を示す時事に関する素材を抽出して、そられをもとに、作者ならびに製作時代及び創作意図を解明しようとしたのが本研究であった。 本年度は、本研究の最終年度で、その成果は、昨年以来続けてきた崇禎本「金瓶梅」各回冒頭詩詞の出典について調査し、これをまとめて発表したことである。各回冒頭の詩詞について、「金瓶梅詞話」と崇禎本「金瓶梅」を比較してみると、そのほとんどが書き改められており、またそのほとんどが先人の作った詩詞を借用したものであること、更には、それら先人の中に万暦時代に活躍した文人一馮埼や王〓登一の作が含まれていることが判明した。なかでも王〓登は金瓶梅の抄本の所持者の一人であったことで知られており、従って、この彼が「金瓶梅詞話」を改作して崇禎本「金瓶梅」にした改作者と何らかの関係のあったことが想定されるが、この点については未だ明確ではない。 またこれとは別に、これまで、作中に秋期彬・曹禾・凌運巽といった嘉靖二十六年の進士と同名の人名があらわれていること。また同じく作中に、安陵・臨清・済寧・魚台・呂梁・宿遷といった運河沿いの地名が出てくることをこれまで指摘してきたが、いずれもそれぞれの持つ意味について未だ明確な答えをつきとめるに至っていない。明らかにしたことが少なく、却って残された問題ばかりが目につくこととなったが、本科学研究費による研究を一つの契機として、すべて今後の課題としたい。
|