科学研究費支給内定の通知をいただいた時点で、未完の論文を三編抱えており、その最後の一編にけりをつけたのが十月下旬でしたから、スタ-トが大分遅れてしまいました。上記の三編は次の通りです。 (1)米国のHolocaust Memorial Centerから依頼された“The Japanese Reactions to the Holocaust 1945ー1990"(約7500語、年内にThe World Reacts to the Holocaust中の一編として刊行の予定) (2)アメリカ学会誌『アメリカ研究』25号(1991年3月刊行)に掲載の「ユダヤ系アメリカ人社会における言論の自主規制」(400字詰め原稿用紙60枚) (3)集英社『世界文学大事典』に掲載予定の大項目「アメリカにおけるユダヤ文学」 科研費による本研究と直接関連した論考を現時点で提示しえないことは、残念でありますが、上記三編の執筆で、小生のユダヤ人観が多少なりと拡充された、という実感は残っております。その間英米文化圏におけるユダヤ人観の共通祖像ともいうべき「彷徨えるユダヤ人」と「シャイロック」について、さらに多角的な理解を進めるため、中世・エリザベス朝英文学関係、ユダヤ系イギリス人関係、キリスト教神学関係の資料を渉猟する一方、反ユダヤ主義を一層根本的に把握するため、哲学・歴史関係書を調べております。(とくにホルクハイマ-/アドルノ共著『啓蒙の弁証法』は、啓蒙が神話を克服したかにみえて、実は神話に復帰しつつある、という認識を解明してくれました。) このように科研費で収集した資料の整理と繙読は進行しており、次回の研究計画調書提出時をめどに、本研究の核心部となる主要論文の完成を期しております。
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