本年度行った研究の一つの大きなポイントは、主に、昨年度に収集・分析した、ドイツ語の形容詞「empfindlich」の意味の揺れについて、考察をまとめることにあった。多面的な考察の結果、次の二つの考察がまとめられ、それぞれ学会において発表された。 (1)言語表現の意味には、その複雑かつ多様な意味の揺れにもかかわらず、意味の核心部分が存在し、その核心部分は、ある抽象的な形式性をもっている。この意味の核心部分の形式は、人間の一般的な知識のシステムとのインタ-ラクションによって、談話のにおける話題の流れや人間の知識構造の制約などの複雑な要因の影響を受け、実際の言語使用における意味の揺れを生じさせるのである。 (2)言語表現の表層的な統語関係からは、意味の多様な揺れという、言語理解の実際を説明するための充分な情報は得られない。例えば、私が取り上げた形容詞「empfindlich」の意味上の主部が何であるかということを決定することについてすら、統語情報は、必ずしも満足な情報を与えてはくれない。不足している情報は、人間の知識システムの働き、文脈情報、話題の推移についての予測、そして、常識の働きなどからあたえられるのである。 二番目のポイントとして、本年度は、重力に関る形容詞「schwer」、「leicht」にかかわり、テキスト・ダ-テ・ベ-スを用いた資料収集をおこない、その分析を進めているが、この作業は、次年度までもちこされる見通しである。 さらに、基礎理論面、及び、分析作業・手法についての考察をそれぞれとりまとめ、公刊済み、あるいは、公刊の準備をすすめている。
|