言語表現「schwer」と「leicht」の分析作業が前年度から引き続き行われた。言語表現には「自然言語固有の意味」が備わっており、私たちの知識システムとインタラクトすることによって、実際の様々な意味理解が可能になるという仮説が、すでに前年度までの研究において、形容詞「empfindlich」の分析に基づいて確認された。 今年度の研究成果は、二つの言語表現を更に分析することによって、上記の仮説を確認したというだけではない。実際の意味理解を可能にするために、「自然言語固有の意味」は、人間の知識システムの概念・記号的な性格の処理をする部門とばかりではなく、比喩・連想・イメージ処理などのより柔軟な処理をする部門とインタラクトしなくてはならないということが、今回の分析によって示された。この考察結果は基本的には、人間の知識システムにおいて、概念・記号的な処理と、非記号的な処理とが、平行処理的に全体の処理システムを構成しており、その結果として複雑で多様な言語理解が成り立っているという、本研究の基本的な理論的考察の予想する所と一致する。 本研究の出発点であった、「自然言語固有の意味」が人間の認知システムにおいてどのように位置づけられるのか、という問題設定に対しては、本年の研究によって、一応の結論が導かれた。「自然言語固有の意味」は、人間の認知システムにおいて、一般的な知識処理における知識内容とは別の質を持っている。それは、非常に抽象的・弁別的な枠組であり、人間の知識システムとインタラクトすることによって、全体の知識処理に大きな影響をおよぼす。しかし、「自然言語固有の意味」の性格を更に追求するためには、より広範囲なデータの分析、または全く別の視点からの分析が必要だろう。
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