1990年度は、行政訴訟制度の機能を支える前提条件でもあり結果でもある法治主義がどのような状態にあるのか、を日独両国について明確化する作業を進めた。まず、4月から5月にかけて、ドイツ連邦共和国ラインラント=プァルツ州のシュパイヤ-大学において客員研究員として滞在し、本研究テ-マに関して調査や多数の研究者および実務家との意見交換を行った。非常に多数の研究機関、行政機関、自治体連合組織などを訪問して直接インタヴュ-をし、また書店ル-トでは入手の困難な情報・資料の収集に努めた。 日本国内でも、多数の行政機関などを訪問し、また札幌近郊自治体職員との定期的研究会を催して、日本の行政訴訟の実務の問題や立法的課題を検討した。 本研究のテ-マ自体も収集した資料類も広範囲に及ぶため、研究成果を未だ総合的な形で執筆する段階に至ってはいない。 現時点では、裏面掲記の通り、研究課題の一部について、論稿をいくつか発表したにとどまる。日独の行政訴訟の相違を概括的に比較したものが「行政訴訟と裁判官」であり、本年度にもっとも力を入れたものが「訟務制度にみる公共性と法治主義」である。ドイツの訟務関係の重要人物のほとんどに直接面談した上で書かれたものである。また、共訳「西ドイツ社会裁判所法」も両国の行政訴訟法の差異を知る上で基本的資料となる。ヴァサ-マン論文の翻訳は、両国の訴訟の発展が異なってきた理由を示しており、わが国の行政訴訟の改善の契機を探る上で意義を有する。「政策法務と自治体」は、今後日本の行政訴訟が活性化するための条件を探る意味をもつもので、自治体関係者へのインタヴュ-の成果といえる。
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