1990年度および1991年度とも、日本の行政訴訟制度が機能するための条件を探るために、日独双方における法治主義の実態をアンケート調査や現地調査の方法によって行った。2年間にドイツで調査した各種機関(大学・裁判所・シンクタンク・行政機関・政党調査機関等)は約60に及ぶ。日本の実態調査の結果と比較することによって、日独の法治主義の現状は両極にあるといってもよいことが明らかになった。 こうした違いが生じた原因には、日本人の法意識一般について指摘される諸特性もあるが、行政救済制度については、より根本的な問題点があることに気づいた。とりわけ公務員の養成・研修、行政不服審査、行政文書管理、決裁制度等における制度と実務が欧米先進諸国とは大きく異なっていることである。この研究では、本来の課題としてドイツの行政訴訟のここ数十年の発展史を包括的に研究する作業をも進めた。以上の一連の課題を解明するために訪ねた各種機関はあまりに多く、収集できた資料が膨大で、予定した2年間では十分な分析作業を果たすことはできなかった。ドイツとの比較を進めた結果、必然的に、世界各国、とりわけ先進国および日本の近隣諸国の行政訴訟との比較を不可欠なものとなり、さらに研究活動は遅延することとなった。しかし、以上の研究の結果として当面の包括的で要約的な論文「行政争訟の現状と改革の方向」を作成した。これはアジア諸国の行政訴訟の実態にも視野を広げて、わが国の行政争訟の危機的状況とその原因について試論を展開し、今後の改革・改善策について一応の包括的な提言をするものである。個々のテーマ関する日独比較研究は今後さらに続ける予定である。
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