平成2年度の科学研究費補助金の交付を受けて、本年度は株式会社における新株の第三者割当発行に関する法理論的研究を、新株発行に関する法体系全体の中で第三者割当発行占める地位の特殊性を検討することにより、第三者割当一般に関する法理論および第三者割当の中でもとくに会社支配をめぐる状況における新株発行価額の問題を検討した。 とくに会社支配をめぐる状況における新株発行については、近時わが国においても企業買収(M&A)現象が高まる中で、株式の買集めがなされた会社が、対抗手段として大量の新株を友好的グル-プに第三者割当発行するケ-スがいくつかみられ、これに関して裁判例も現われるにいたっている。ここでは、会社法上の問題点が二つある。第一は、そのような会社支配をめぐる争いがある場合に、会社の取締役会は自由に自己の裁量により会社支配に影響を与えるような新株の第三者割当発行を行うことができるかという問題である(いわゆる新株の不公正発行)。第二は、株式の買集めがなされている場合には、対象会社の株価が投機的思惑等の要因もあって、通常の場合に比べて異常に高騰していることが多いが、このような場合に新株の発行価額の決定はどの様になされるべきかという問題である。そこで、本年度の研究では、右の二つの問題のうち、後者すなわち新株発行価額の問題を、主としてアメリカにおける会社支配権をめぐる金融論・財務論の議論を参考にしながら、検討した。
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