物自体の使用価値よりも、投資や知識から生み出される経済利益をより重視するいわゆる「ソフト化社会」において必然的に増加しつつある取引不法行為のうち、消費者取引における取引不法行為について、各種悪徳取引を対象に調査・研究を行った。被害者集会や弁護団会議に出席して、消費者被害の実情の把握につとめるとともに、国内の具体的事件の内容・争点を各種デ-タベ-スや判例集、各地の消費者センタ-、弁護団から得た情報を整理し、豊田商事の現物のまがい商法や広告被害等の類型についてデ-タベ-スを作成した。 法理論的には、仕組みと勧誘方法を中心とした違法性の認定方法、公序良俗と不法行為、自由意思論と過失相殺、独占価格と不法行為、暴利行為と不法行為等の論点について、先進諸外国法の状況とも比較しながら、検討を行った。交通事故や公害、製造物責任という人身事故類型をベ-スにした不法行為法の一般理論モデルでは、違法性論や過失相殺、賠償範囲論の点で取引不法行為には必ずしも適合するものとはなっていないことが明らかになった。 立法論としては、不正競争防止法を消費者保護の面から改正強化するとともに、その周辺を民法の取引不法行為理論がカバ-するというのが適当であるとの一応の判断に到達した。引き続き、事業者間取引における取引不法行為についても調査・研究を進め、違法性の相関関係説の見直しを含めた取引不法行為法の一般理論化をはかりたい。
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