物自体の使用価値よりも、投資や知識から生み出される経済利益をより重視する「ソフト化社会」においては、取引で被った損害の賠償を不法行為責任の形で追及する例が増加している。そこで、人身事故型不法行為には見られない取引不法行為に特有の諸問題を研究するのが、本調査・研究の課題である。本年度は、昨年から継続中の消費者取引における不法行為の調査・研究に加えて、事業者間取引における取引不法行為に調査・研究の対象を広げた。 消費者取引における取引不法行為については、被害者集会や弁護団会議に出席して、消費者被害の実情の把握につとめるとともに、国内の具体的事件の内容・争点を各種デ-タベ-スや判例集、各地の消費者センタ-、弁護団から得た情報を整理した。とりわけ、マルチまがい商法およびゴルフ会員権商法について、詳細な調査・研究を行った。 事業者間取引における取引不法行為については、国内の具体的事件の内容・争点を、各種判例集、新聞、弁護士、企業の法務担当者からの聞き取りによって調査、整理した。法理論的には、独禁法違反と不法行為、倒産時における商品の引揚げと不法行為、詐害行為取消権と不法行為、二重売買と不法行為、代理人の権限濫用と不法行為、契約締結交渉の破棄と不法行為、担保的利益の侵害と不法行為の各類型について検討した。 さらに、両者に共通する作業として、不正競争防止法上の不正行為類型について、欧米諸国法との比較研究を行い、立法論的提言を行った。
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