物自体の使用価値よりも、投資や知識から生み出される経済利益をより重視する「ソフト化社会」においては、取引で被った損害の賠償を不法行為責任の形で追及する例が増加している。そこで、取引不法行為に特有の諸問題を消費者取引と事業者間取引と分けて調査、検討した。 消費者取引については、各種悪取取引の被害者集会や弁護団会議に出席して消費者被害の実情の把握につとめ、具体的事件の内容・争点を判例集、各地の消費者センタ-、弁護団から得た情報をもとに整理した。法理論的には、仕組みと勧誘方法を中心とした違法性の認定方法、公序良俗と不法行為、自由意思論と過失相殺、独占価格と不法行為、暴利行為と不法行為等の論点について、検討を行った。人身事故類型をベ-スにした不法行為法の一般理論では、違法性論や過失相殺、賠償範囲論の点で取引不法行為に適合するものとはなっていないことが明らかになった。立法論としては、不正競争防止法を消費者保護の面から改正強化するとともに、その周辺を民法の取引不法行為理論がカバ-するというのが適当であるとの結論に倒達した。 事業者間取引については、国内の具体的事件の内容・争点を、各種判例集、新聞、弁護士、企業の法務担当者からの聞き取りによって調査、整理した。法理論的には、独禁違反と不法行為、倒産時における商品の引揚げと不法行為、詐害行為取消権と不法行為、二重売買と不法行為、代理人の権限濫用と不法行為、契約締結交渉の破棄と不法行為、担保的利益の侵害と不法行為について検討した。
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