本研究は、日本国籍を持たないが生活の本拠を日本におき生活実態において日本との結び付きが他のいずれの国よりも強い、いわゆる「定住外国人」の私法的法律関係とりわけ家族法関係の問題を検討しようというものである。わが国国際私法は渉外家族法につき原則として本国法主義を採用しているため、定住外国人の多くを占める在日韓国・朝鮮人には韓国法ないし北朝鮮法が、在日中国(台湾)人には中国法ないし台湾法が、それぞれ適用される。近時、わが国国際私法の基本法典たる法例が、婚姻・親子の部分を中心に大きく改正された。他方、定住外国人の多数を占める在日韓国・朝鮮人の本国法である韓国家族法および北朝鮮家族法がほぼ時期を同じくするかのごとく、それぞれ大きく改正され、あるいはあらたに制定・施行されたところである。そこで、本年度の研究では、改正されたわが国の法例、同じく改正された韓国家族法、そして新法たる北朝鮮家族法が適用される場合の問題について検討を進めてきた。 定住外国人の渉外家事関係から今回の法例改正をみれば、その最大の特徴は準拠法としての日本法適用例の大幅増加であろう。法例16条但書のような日本人条項を根拠とする場合はもちろん、14条およびそれを準用する15条、16条、さらに21条等において採用された段階的連結における「共通本国法」につぐ第2次連結としての「共通常居所地法」として日本法がその準拠法と指定される場合が少なくない。 伝統的家族制度を色濃く残す韓国家族法の改正は、1男系血統中心主義の是正、2戸主の役割の縮小、3両性平等の実現、4強制戸主相続の廃止、5若干の新制度の採用、という以上5点にまとめることができる。「革命」、「大改正」と評されたほどの改正であったが、その後に実施された韓国の全国的な法意識調査では、新制度の周知、徹底が必ずしも進んでいない結果が出ている。北朝鮮の新立法については、条文等主要な資料は入手したものの、これらを補充、補足する情報等の入手が難しくなお未解明な部分がある。この点については、今後の課題としてゆきたい。
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